親知らずの抜歯に健康保険はOK!医療保険は?

2018年10月22日 (月)
親知らずを抜歯するとき、公的医療保険である健康保険などを使うことができます。患者さんが歯科クリニックの窓口で支払うお金は、治療の費用の3割以下になります。
しかし民間の保険会社が販売している民間医療保険のほとんどは、親知らずの抜歯の治療では使うことはできません。
がん治療や心筋梗塞や脳梗塞などの治療には民間医療保険があるのですが、歯の治療用の民間医療保険はほとんどないのです。
かつてあるクレジットカード会社が充実した内容の歯科治療用の民間医療保険を販売していましたが、廃止してしまいました。

原則は、民間医療保険は使えない

原則は、民間医療保険は使えない

親知らずの抜歯は原則、民間医療保険を使うことはできません。
なぜなら、親知らずの抜歯は通常は「歯を抜くだけ」だからです。もちろん、大きな外科手術が必要な場合もありますので、歯医者にとっては「簡単な治療」ではないのですが、多くの親知らず抜歯は30分ほどで済むので、患者さんからすれば「抜くだけ」という印象を持ちます。
そのようなシンプルな治療は、民間医療保険にはそぐわないのです。
このことを理解するには、「そもそも民間医療保険とは」を知っておく必要があるでしょう。

そもそも民間医療保険とは

民間保険会社が販売している保険商品には必ず、「こういう病気にかかって、こういう治療を受け、入院期間がこれだけになったら、いくらの保険金を支払う」という詳細なルールが決められています。
というのも、民間保険会社は民間企業なので、自社が損をして経営が傾くような保険商品はつくらないからです。保険事故の発生率や、保険事故が発生した場合に支払う保険金の額、保険商品の販売予測などを入念にシミュレーションして、保険金を支払っても利益が出る保険商品をデザインするのです。
ちなみに「保険事故」とは、保険金の支払いが生じる状況のことをいい、例えば、がん保険であれば契約者のがんの発症が保険事故です。

「ほぼ確実」に民間保険会社が損をしそうな商品になるから

仮に、民間保険会社が「親知らず抜歯保険」を販売したとしましょう。この保険商品の保険事故は親知らずの抜歯になります。
親知らずはかなりの頻度で生えてきます。むしろ、親知らずが生えない人のほうが珍しいくらいです。そして親知らずが生えてくれば、歯医者はかなり高い確率で親知らずの抜歯をすすめます。そうなると患者さんのほうでも抜いてしまったほうがいいと考えるでしょう。
つまり親知らず抜歯保険をつくったら、保険事故の発生率が異様に高い保険商品になってしまうのです。「ほぼ確実に」契約者の月々の保険料の支払い額より、契約者に支払う保険金の額のほうが大きくなってしまい、「ほぼ確実に」民間保険会社が損をしてしまうのです。つまり親知らずは、民間保険会社にとって魅力が薄い治療対象なのです。

では、がん保険はなぜ人気商品なのでしょうか。がんは日本人の2人に1人、または3人に1人がかかる病気であり治療費が高額になる病気です。保険事故の発生率が高そうですし、保険金の支払いも増えそうです。つまり、民間保険会社が損をしそうな商品です。
しかしそれでもなお、がんは、一生涯発症しない人もいます。また、何十年もがんが発症せず、高齢になって発症することもあります。ということは、民間保険会社は、契約者にがんが発症するまでの期間、保険料を徴収することができます。よってがんでは、民間医療保険ビジネスが成り立つのです。

かなり大きな手術になると民間医療保険が使えるかもしれない

かなり大きな手術になると民間医療保険が使えるかもしれない

先ほど「親知らずの抜歯は極論すれば歯を抜くだけ」と解説しましたが、しかし親知らずの抜歯では、入院が必要な事態になることもあります。
親知らずのなかには、真横に成長するものもあるのです。縦に成長すれば「引き抜くだけ」なのですが、真横に生えてしまっては引くことも抜くこともできません。
そうなると歯肉(歯茎)をメスで大きく切開して顎の骨を露出させ削っていくことになります。親知らずを割ってからでないと抜けないこともあります。
骨を空気にさらすと細菌感染する恐れがあるため、設備が充実した手術室で行わなければなりません。全身麻酔が必要になることもあります。
さらにそれだけ大きな手術を行うと、麻酔が切れると激しい痛みに襲われたり、発熱したりすることもあるので、入院が必要になります。
ここまで治療規模が大きくなると、民間医療保険の対象になるかもしれません。保険金が出るがどうかは契約内容次第なので、民間保険会社の営業担当にしっかり話を聞くことをおすすめします。

アメリカン・エキスプレスは歯の治療保険を辞めてしまった

親知らずの抜歯を含む歯の治療の民間医療保険はほとんど存在しないのですが、クレジットカード会社のアメリカン・エキスプレスはかつて、カード会員に「マイ・デンタル」という歯科の民間医療保険サービスを提供していました。
虫歯治療の詰め物、被せ物、歯周病治療、抜歯手術、親知らず治療、インプラント治療などを受けた場合、保険金を支払っていました。かなり充実した内容といえるでしょう。
しかし、アメリカン・エキスプレスに確認したところ、このサービスは廃止されたそうです(2018年8月現在の情報)。
アメリカン・エキスプレスはマイ・デンタルの廃止の理由を明らかにしていませんが、その後、他社から似た保険商品が販売されていないことからすると、「歯科の民間医療保険をつくることは相当難しい」といえるのでしょう。

資料:廃止前のアメリカン・エキスプレスの歯科の民間医療保険「マイ・デンタル」の説明書
https://www.americanexpress.com/content/dam/amex/jp/assets/contents/benefits/insurance/products/dental_regulations_2.pdf

まとめ~遠慮なく尋ねてみましょう

民間医療保険に加入すると、かなり詳細な契約書や説明書が渡されます。そこに書いてあることがすべてなのですが、文字が細かいですし、説明内容が多岐に渡るので、すべてに目をとおして理解することは困難です。
そこで、民間医療保険に加入していて、これから親知らずを抜歯しようとしている方は、治療に着手する前に民間保険会社の営業担当者に「保険金が支払われるのかどうか」聞いておいたほうがいいでしょう。
もし営業担当者が「保険金が支払われる場合がある」と答えたら、さらに詳しく「どういうケースで保険金が支払われ、どういうケースで支払われないのか」尋ねましょう。