お口全体を徹底的にきれいにした女性のMさんです。

当院では、咬み合わせを考えた総合的な治療を提唱しています。
総合治療の期間は通常1年程度ですが、Mさんはお仕事が忙しかったため、たまの土曜日を活用してお互いのスケジュールを確保し、足掛け3年で治療を完了させました。

お口全体を3年かけて仕上げた
高い透明感と柔らかさを表現するために、ヨーロッパのセラミックを使用しました
天然歯とセラミックがきれいに調和

もともと10年来、永井歯科に通ってくださっている患者さんです。
奥歯の虫歯などその都度対応していましたが、問題点が続発してきたため、2017年にお口全体の治療をご提案しました。

矢印は歯に大きな問題のある箇所

当初の相談では、前歯は触らず、奥歯を中心に治療する予定でした。
しかし、前歯が差し歯で小さめだったこともあり、全体のバランスと、前歯が奥歯を守る役割を担えていなかったため、全体的に治療することをご提案し、セラミックで歯の形態と機能の回復をすることにしました。Mさんとしても全体のバランスは気にはなっていました。でも難しそうだし治るのかな?と諦めもあったようです。前歯の位置は機能面でも見た目にも大きな差が出るところです。とくに0.1ミリ単位でこだわって調整しました。

ドイツ製の咬合器上に装着されたリハビリ用の仮歯です

また、下アゴの前歯は少し前に出ていたので、咬み合わせを整えるため歯が内側に入るよう被せではなく歯の表面を一層だけ削り、左下の犬歯1本だけは被せものにしました。

院内の加工機で製作されています

Mさんは形の好みもはっりきしていたのでいろいろと新しい仮歯を入れ替え、試しては装着感と見た目をテストしました。途中からMさんの好みが一部分にこだわるあまり全体のバランスが崩れそうになってきたので、最終的には全てを私と当院の技工士に任せていただいて、3人共が納得できる形を作りあげました。とはいえMさんの意見は非常に参考になりました。木を見すぎると森を見失うし、かといって森ばかり見て木々のバランスが崩れてもいけないし、バランスをとるのはとても難しいです。

個々の歯と全体のバランスを考えながら
院内技工士が歯の形を手直し

咬み合わせを調整する際、一時に咬み合わせに違和感の出ることがあります。慣れ親しんだ咬み合わせのほうが、正しい咬み合わせよりも、その方にとって馴染みがあるからです。Mさんも、咬み合わせを調整した直後は若干、違和感があったそうですが、食べられないわけではないし、すぐに慣れたということでした。

最適な咬み合わせを作るために、健康な歯を一部削る場面があります。
後々ほかの歯に悪影響が出る可能性があるなら、受け入れます。ということで歯の一部を削り歯の形を修正することをMさんには了承していただきました。

治療は3年かかりましたが、Mさんとしては長いという意識はなかったそうです。
治療中もつねに噛めるように、たとえばインプラントを入れた直後は荷重をかけられないためインプラント以外で噛めるブリッジを作るなど、その都度、工夫しています。2か月ほど左下の奥歯がない時期はありましたが、それ以外はつねに仮歯で噛める状態にしていました。
仮歯もしっかりお作りしたので、まだ仮歯の段階で周りの方から「きれいになったね」「治療終わったの?」と言われたこともあったそうです。

治療中も常に咬める状態を確保するために、インプラントは2回に分けて手術しています。不安はなかったそうで淡々と治療を受けていただきました。

全体のバランスと機能が整いました

治療が終わり、現在はメンテナンスに通っていただいています。
もともと噛めない、痛いといった機能面での悩みはなかったため、とくに嬉しいのは見た目がきれいになったことだそうです。

笑顔は口元で変わる。周りからも「きれいになった」と言われるそうです。
調和のとれた咬み合わせとなり、下アゴの正中の位置もよくなってきました

歯とアゴ関節が悪くなる原因の中で見逃されがちなのは、有害な咬み合わせです。
今回の治療では、お口全体とアゴの動きの調和を考えて、咬み合わを構築いたしました。これから長く快適にお使いいただればと思います。

■治療期間と費用
・治療期間3年
・治療費:インプラント1本あたり45万円 天然歯の被せた所1本あたり18万円(税別)
 
■リスクと副作用
インプラントも日常の清掃やメインテナンスを怠ると、天然歯の歯周炎のようにインプラント周囲炎が起こります。神経の治療をしている歯は治療後に歯の根が折れたり抜けることがあります。

1年かけて総合的な治療を行った治療当時40代、現在50代前半の男性の症例です。
2017年に総合治療を終え、現在は定期点検に年に3度ほど通院されています。

いまは痛みや苦痛もなくなり、結果としてこの方にとって100点満点の治療ができたと、患者さんも私たちも実感できています。

しかしながら総合治療を行うまでは長い道のりがありました。

2008年から2016年までは、痛んだ時だけ、歯がなくなった時だけ、その都度その部分だけの治療を求めて永井歯科に来院されました。

現在では、永井歯科は総合的な咬み合わせ治療を行っています。ですので、こういったその場限りの場当たり的な治療を求めて来院される方はいらっしゃいません。

その場しのぎの治療は時間の浪費

2008年のレントゲンと2016年のレントゲンと口腔内写真です。

2008年
2016年
2016年

たしかに8年間で残せない歯は抜かれ、被せ物や入れ歯が入りました。しかしながら8年間の断続的な治療の末に、咬めている歯の本数はほとんど変わりません。右下にも健康保険の入れ歯もつくりましたが、装着感も悪く結局使っていませんでした。

当時は下の歯が上の歯の裏側を突き上げて、身体的に痛い思いを日々していたそうです。
また片方しか嚙めないのでしっかり噛めず、柔らかいものを選んで食べていました。いわば丸呑みです。

いよいよ、その場しのぎの治療への打つ手は無くなり、これまでと同じ治療を続けることは困難になりました。

そこで当院から以下のご提案をお伝えしました。

・健康保険では、総義歯以外で咬み合わせのための総合治療はできないこと。
・しっかりと噛むためには保険の部分入れ歯では対応できないこと。
・治療には計画的な通院が必要になること。
・費用は安いに越したことはないが、インプラントを含めある程度の出費が必要なこと。
・相談に先立ち5万円の費用をお支払い頂き、最終形態のデザインを作り、方針を決めること。

この5点を前提条件とした上で、数回の方針と総額の治療費用のご相談に移りました。

事前に立てる最終形態のデザイン

相談の上では予算的な制約もありましたし、入れ歯はイヤで被せもので対応してほしいというリクエストもありました。
これらは現実的には非常に難しいリクエストでした。
長持ちしなさそうな歯もたまたま何とか残りましたが、近い将来のリスクは残ります。
歯を残すことは一見いいことのようですが、弱い歯を残すことで、短期間でダメになる歯が生じるなど、総合治療をするときにはマイナスになる面もあります。
その際の費用と時間の出費は患者さまが負担しないといけないことを同意して頂きました。

インプラントは3本使用し、あとは全て被せもので治療は終えています。

治療後3年。良好に経過しています。

仕事で忙しい方でしたが、仕事の合間や土曜日を利用して時間調整をし、1回に2時間ほどの時間を約束しました。月に1ないし2回ほどの通院でしたが、1年の間ずっと定刻通りに通院して頂けました。計画治療には時間の約束を出来ることが欠かせません。

治療後1年の時右下のインプラントのセラミックが割れて外れることがありました。原因はセラミックの一部分の厚みでした。当院の技工士が工夫して作り直し、その後は不具合もなく良好に経過しています。2回の受診で、費用は再診料のみで対応しています。その後、他のトラブルはなく3年が経過してます。

トラブルはゼロに越したことはないでが、まれに起こることがあります。しかしこういったトラブルをきちんと考えて対応することで、院内の歯科技工の信頼性が高まってきました。

治療を終えて、いまでは食べられるものを選ぶ必要はありません。お肉でも何でも食べられています。入れ歯や口の中の煩わしさからも解放されました。
何でも食べれられる。当たり前のことのようですが、以前は歯の不具合を騙し騙しでしのぐことが習慣になっていたそうです。それがなくなり、「何でも普通に気にせず食べられるのが有難い」と実感されています。
咀嚼力判定のためにグミを噛んでいただいていますが、治療後は10段階で8まで噛める状態に回復しています。

歯は、前歯から奥歯までそれぞれに役割があります。
「1本くらいいいであろう」ではなく、1本1本に大切な役割を与えなくてはなりません。そうすることで、歯列全体が保たれ長持ちします。

■治療期間と費用
・治療期間:16か月
・治療費総額:250万円(税別)
 
■リスクと副作用
インプラントも日常の清掃やメインテナンスを怠ると、天然歯の歯周炎のようにインプラント周囲炎が起こります。インプラント治療は外科処置です。一般的な外科処置の偶発症が起こる可能性があります。神経の治療をした状態の悪い歯は治療後に歯が抜ける、歯の根が折れることがあります。

40代男性の症例です。
来院時、入れ歯をお持ちでしたが、全く使えずにお過ごしでした。
食べたいものが食べられない。咬むことができないので食事に時間がかかる。家族と違うメニューを食べる。人と一緒に食事を楽しむことが出来ない。
また、お仕事では初対面の方と会う機会も多いそうですが、笑うのにはなかなか抵抗がある。
このような不満をお持ちでした。

来院時

当院に来ていただいたからには、なんとか食べれるようになってほしい、笑えるようになって欲しいと、私が思うだけでなく当院のスタッフからも声が上がっていました。
入れ歯そのものに対しての不満な点をいろいろとお伺いしました。
健康保険の入れ歯で満足に食事が出来ないとのことでしたので、治療方法としてはドイツ式入れ歯かインプラントかの2択になります。
まだ40代と若くて体力もあり、残りの人生をまだまだ長く楽しんで頂くための解決策として、今回は手術後すぐにインプラントを使ったブリッジの歯が入る方法を選択しました。

手術後に歯が入った時、ご家族は歯が入ったことに衝撃を受けられたそうです。
別人のような代り映えに、喜びから思わず「誰やー(笑)」と言われたということでした。

治療中に使っていたリハビリ用のブリッジ(仮歯)
初めの歯のデザインから完成まで 外注ではなく院内で製作

治療は全てが円滑に進んだわけではありません。とくに物凄い力で食いしばることに悩まされました。初めからわかっていれば良かったのですが、だからこそご自身の歯が失われてきたのだと改めてわかりました。
食いしばりのために、入れたインプラントが4本、骨にくっつきませんでした。そこですぐにその4本を抜いて改めて6本を入れ直し、咬む筋力を下げる注射を行い、リカバーしています。

治療前と治療後(右はセラミックの本歯)
治療前と治療後
ジルコニアセラミックで出来た歯
6本のインプラントで全ての歯を支える総インプラント

今回の治療では、下の残っている歯は8本全て抜く計画にしました。
下の歯が通常より前に生えていると、咬み合わせの関係で、奥歯と上の前歯は壊れてしまう傾向があります。この方はまさにそれに該当していました。であるからこそ40代と若くして、たくさんの歯が短期間に失われてきているのです。

治療では虫歯でもなんでもない歯を抜く提案をする局面があります。例えば今回のように、力(咬み合わせ)が原因であるとわかった時がそれです。
今後インプラントを長期間維持する理想の咬み合わせと、歯を残しておいて近い将来やり替えになるリスクについて考えました。その結果、全ての歯を抜いてベストな位置に歯列を並べてしまうほうが、生涯、歯にかかる出費は抑えられるであろうと判断しています。

下の歯が著しく前に生えていた。多くの歯が短期間に失われた大きな要因である。

インプラントのブリッジにはいろいろな種類がありますが、年齢が若く、これから長期間の使用が想定されること、そのほかのさまざまな利点欠点を考慮し、今回は強化セラミック(ジルコニアセラミック)でねじ止めのインプラントを選択しました。
万一インプラントが1本ダメになることがあったとしても、残りのインプラントで咬めるように工夫しています。また早期の咀嚼回復のために手術と同時に咬むことができるようにインプラントを入れました。

治療期間は、最終のセラミックが入るまで10か月でした。仮歯でのリハビリ期間に2か月の中断期間がありましたので、実際にかかった期間は8か月になります。
治療開始の手術当日から強化プラスチックのブリッジが入り、食事ができる、笑える、と喜んで頂きました。

噛む能力については、治療の前後でグミを30回噛む咀嚼能力判定テストを行いました。治療前に10段階のうち1だったところ、治療後は8に向上しています。

治療には予算も重要になります。この方も奥様を交えて当院の治療コーディネーターと話し合いを重ねました。さまざまな選択肢の中から実現可能な方法をじっくり模索した上で治療を決断されました。

■治療期間と費用
・治療期間10か月(実質8か月)
・総インプラントの標準的な費用は片顎180万円(税別)~。
 お口やあごの骨の状態に合わせて適切な治療をご提案します。

■リスクと副作用
インプラントも日常の清掃やメインテナンスを怠ると、天然歯の歯周炎のようにインプラント周囲炎が起こります。

奥歯がないために噛み合わせが崩れて、上の前歯(左右それぞれ1番の歯)がグラグラになって開いてきてしまっていた患者さんがいらっしゃいました。

奥歯の支えが少なく、上の前歯がグラグラになり、前に出てきてしまいました。今は透明の接着材料で止めています。
上の前歯2本はぐらぐらになって骨に植わっていません

奥歯には保険診療の入れ歯が入っていました。なぜ前歯がグラグラになってしまったか。左右の奥歯をつないだ部分入れ歯で、入れ歯を支える金具が前歯の裏にくる形になっていました。これは入れ歯が沈んでしまう設計です。入れ歯が沈むと奥歯よりも前歯にばかり力がかかり、力で前歯がグラグラになってきます。奥歯の歯数が減ると上アゴの入れ歯は上アゴ全体を丈夫な金属で覆うことが理想です(写真参照)。実際に自分の口の中を触ってみればわかるのですが、写真の赤で囲われた上アゴの真ん中の部分は骨格的に硬く、入れ歯が沈まないようにサポートするのに適した場所なのです。

米国の専門書。上アゴは広い面積を金属で覆うことが推奨されています

しかし、このように上アゴ全体を丈夫な金属で覆う方法は、健康保険の入れ歯では認められていません。

治療前 前歯が前に飛び出してきている 保険の入れ歯は留め金が目立ちがち

また、この方は、下アゴが上より大きいく力の強い咬み合わせでした。
もともとアゴの骨の性質は上下で異なります。上アゴはスポンジのように柔らかい骨、下アゴは鎖骨に似た非常に硬い骨で、歯を支える強度は上下で異なります。人間には上アゴは頭にくっついていますが、下アゴ頭から離れており上下左右に動きます。例えるならば上アゴはお皿で下あごはハンマーです。ですので下アゴは食事をしている間、はたまた歯ぎしりをする間ずっと上アゴに打撃を与えます。このように「下が強い」噛み合わせが原因で、上の歯が悪くなっている方は非常に多いです。

この方の場合も下の歯は全く失われることなく、上の奥歯は失われ、今度は前歯が壊れてきています。入れ歯をしていたにも関わらず、前歯を支えることができなかったのです。

ですのでこの方は本当はインプラント治療が適したケースになります。前歯を守るためには、真ん中の前歯2本を抜いてブリッジにし、奥歯にインプラントを入れるのが最適でした。
しかし、この方は「インプラントは絶対いや」ということでしたので、ご相談の上、奥は入れ歯にし、工夫してなんとか作りましょうという治療計画に決まりました。入れ歯で前歯を守るためには、もちろん上アゴ全体を丈夫な金属で覆う方法です。

模型診断
治療前 適切な咬み合わせをデザインしました
左は治療前。前歯だけにとても大きな力が集中することがわかるでしょうか。
右は治療後のイメージ模型。奥歯によって前歯が守られるようになりました。

しかし、どうしてもわだかまりがありました。この方の下アゴは歯も骨格も非常に力強く、仮に上アゴ全体を丈夫な金属で覆ったとしても前歯を完全に守ることは出来ないのではないかと心配だからです。そこで、インプラントを左右の入れ歯の下に左右1本づつさせてほしい、費用はただみたいな感じでもいいですからとお願いしました。「ではインプラントをします」ということになり、左右1本ずつだけインプラントを入れることになりました。そのあと、患者様の方から「せっかく2本インプラントを入れるのに、入れ歯をするのは面倒。奥歯は全てインプラントをしたほうが入れ歯をつけたり外したりする手間はなくて簡単でいいのでは?」と尋ねられました。もちろんその通りですので、奥歯は全てインプラントで対応することを検討してみました。
またこの方は骨粗しょう症のお薬を飲んでいましたが主治医の先生と相談したところリスクもそれほど高くなく手術できる状況でしたので、やってみましょうということでお話がまとまりました。
写真は奥歯にインプラントを6本が入り、上の歯全体にリハビリ用の歯が入ったところです。なぜ、リハビリをするのでしょうか?それは前歯だけが残っていいる方は今咬める前歯のほうにアゴを出して咬む傾向があります。つまり本来の咬む位置よりも前方で咬んでいます。そこで本来のあるべき場所で咬めるようにリハビリの歯を作って練習をします。そうして歯列全体でうまく咬めるようになれば最終の歯に変えてゆきます。

インプラントが入り、 リハビリ期間中の仮歯の様子
治療後 丈夫なセラミックで仕上げました。自然で素敵に見えて、作り物の歯だと気づかれないことを意識してお作りしています。
セラミックは永井歯科の歯科技工士がドイツ製のデザインソフト上でデザインし、
院内で製作しています
治療後 上の歯列は、下あごからの強い力を十分に受けとめられるようになりました。
上:治療前 下:治療後
治療後は出っ歯ではなくなり 入れ歯の針金はなくなりました 
上の奥歯にインプラントが入りました。もう前歯はグラグラにはなりません。なぜなら奥歯のインプラントが下アゴからの力をしっかりと受け止めているからです。

インプラントに抵抗のある患者さんはいらっしゃいます。
人から聞いた話で否定的になったり、「怖い」と感じている方も多いようです。。この方も「怖い」ということでしたので、手術の日は静脈麻酔で、うたた寝のうちに手術を終えました。

インプラントに心配をお持ちの方は少なからずいます。そういう方々の多くが来院時に「治療を受けた方々のアンケート」と豊富な症例写真で説明を聞いて、安心と勇気をもらっているようです。

治療を終えて、入れ歯を外して洗う手間もなくなり、不自由なくちゃんと噛めているそうで、この治療にしてよかったと喜んでいただいています。

■治療期間と費用
・治療期間:11か月
・費用や治療法はインプラントのページを参照ください

■リスクと副作用

インプラントも日常の清掃やメインテナンスを怠ると、天然歯の歯周炎のようにインプラント周囲炎が起こります。お手入れや生活習慣、骨質や咬み合わせによって長期予後は変わります。全身疾患や状況によってはインプラント治療ができない場合があります

どんどん歯が抜けてしまった患者さんのお話です。3年の間に歯がどんどん抜けていき、部分入れ歯が大きくなっているのがわかります。

来院時
入れ歯を使って3年
上の奥歯と下の前歯がぐらぐらになって抜けてきました

ご本人は、「ちょっとずつ抜けていっているから、あと2年はもつと思います」とおっしゃっていましたが、お話しているうちに、いまのうち根本的に治療したいということになり、上の歯は当時力を入れていたAGCブリッジ、下はズレない入れ歯で、入歯がズレるのを防ぐために天然の歯3本にスナップをつけて、左にインプラント1本だけ入れることにしました。

なぜ歯がどんどん抜けてしまったのか? 原因は噛み合わせと歯周病だと考えられました。

歯医者さんは大抵、部分入れ歯を「歯がないところ」に入れます。
しかしそれが噛み合わせを悪くする原因になるのです。私も昔はそれが分かっていませんでした。

本来、噛み合わせというのは、上下の噛み合わさる部分が浅いほうがバランスがよいです。上下2ミリくらいの浅さが、横に激突されない、いい深さです。
噛み合わせが深いと、あごが横に動いたとき上下が逃げない、奥歯が離れない、本来あるべきルールから外れた噛み合わせになってしまいます。
しかし、とくに保険診療の入れ歯では、噛み合わせが深いところに、そのまま入れ歯をこの深さで入れてしまうケースが多いです。部分入れ歯を高くして、咬み合わさる部分を浅くしようとすると、全体に咬み合わせは高くなっているので残っている歯は噛み合わさりません。健康保険の治療において、咬み合わせを作るために削って被せを作ることはルール上できません。健康保険で被せものを作れるのは大きく分けて2つの条件だけです。一つは虫歯の歯の形の回復のために被せものをする。そしてもう一つは歯がなくなったところにブリッジをする。ですから健康保険では、全体の咬み合わせをなかなか考慮できず、単純に歯がないところに入れ歯を入れてしまうケースが多いのです。

一つ一つの歯の長さがまちまちで、内に入ったり外に出たり不揃い

結果、上下の咬み合わせとしては、どこかの歯にあたりやすい、避けようと思ってもぶつかってしまう噛み合わせができあがります。一か所に集中して力がかかり続け、その歯はボディーブローのようにダメージを受けてグラグラになっていく。そして歯が抜けて、抜けたところに歯を入れようとまた入れ歯を作り直し、終わりのない治療が続くことになります。

噛み合わせを改善しないまま、歯が抜けたらそこに入れ歯を足す、ということを当たり前に続けていくと、歯はどんどん失われてゆきます。多くの方は、どんどん抜けていくことを不安に感じ、食い止めたいと思っていると思います。
「最後の治療」がしたいと言って相談に来る患者さんも多いです。

最後の治療は、できれば70歳くらいまでにしておくのが理想です。噛み合わせを改善しないまま、歯が抜けたら入れ歯を作り直す、ということを続けていくと、いつまでも治療が続くことになります。最後までその咬み合わせでいくと、いずれ高齢になって通院できないようになります。
そのときに咬み合わせで悩まず、ちゃんと仕上がった咬み合わせをキープする。そのために必要なのが根本的な治療です。

入れ歯で大事なのは、「歯がないところに歯を入れる」ことよりも、正しい咬み合わせを作ることです。この方の治療では、理想の咬み合わせを徹底して追及しました。

治療前:入歯を装着したところ

この方は、向かって真ん中右隣の歯が伸びてきていました。上下の歯の咬み合わせが深く、あごが横に動いたときに上下が逃げない、奥歯が離れない咬み合わせになっていました。そうした点を改善し、お口全体の噛み合わせを整えました。
上顎のインプラントは本数が6本以上で強度が出るのでブリッジの形でしっかり力を受け止める設計にしました。一方、下の歯は入れ歯の形にしました。インプラントと天然の歯の本数から考えて下には強い力がかからないようにしました。天然と入れ歯に、またインプラントと入歯の間には重心を下げた低い位置にスナップを、入れ歯がズレないようにしています。重心が低いと歯にかかる横向きの力が少なくなり、歯とインプラントと入れ歯が長持ちしやすいように工夫しています。

治療終了後。
上の外せるブリッジと下の外せる入れ歯

また上の入歯は今回、歯科医師でなくても外すことができる「外せるブリッジ」にしています。将来介護生活になった際に、介助者の方でも容易に外して掃除ができるような工夫を施した治療を行いました。

将来介助者でも外すことができる外せるブリッジ

70代のうちに根本的に噛み合わせから改善でき、しっかり食べられるようになり、グミによる咀嚼能力測定では、10段階で6まで咬めるようになりました。

治療後3年
治療後3年

咬み合わせ以外にもう1つ、歯が抜ける原因となっていた歯周病も、インプラントを入れる前のタイミングでしっかり除菌しました。咬み合わせと歯周病を改善し、残りの歯を守る治療ができました。

■治療期間と費用
・治療期間1年
・費用や治療法は、はずせるブリッジズレない入れ歯の各ページをご参照ください

■リスクと副作用

インプラントも日常の清掃やメインテナンスを怠ると、天然歯の歯周炎のようにインプラント周囲炎が起こります。お手入れや生活習慣によって長期予後は左右されます。骨や咬み合わせといった局所や全身の状況によって成功率と長期予後は変わります。

ずっと歯医者に通っているのに、どんどん歯が悪っていく…というご相談を受けることがあります。一箇所を治しても、また別の歯が悪くなったり、抜けたりして、年々お口の中の状態が悪くなってしまうのです。
そうならないためには、悪くなった箇所を場当たり的に治療するのではなく、お口全体を見て治療することが大事になります。

とくに多いのが、噛み合わせを考えずに治療した結果、別の歯が痛んでしまうケースです。私の治療ではありませんが、後輩歯科医師から相談されたケースをご紹介します。

「グラグラの歯があるので、その歯を抜いてインプラントを入れてもらえないですか?」というのが相談の内容でした。
私は、まず歯がグラグラになった原因を確認すべきだと答えました。歯が悪くなったからインプラントを入れる、という単純は話では解決しないことが多いからです。

この患者さんは、数年の間に何本もの歯が悪くなってしまっていました。歯周病でグラグラになって歯が抜けたり、歯の根っこが折れてしまったり、根分岐部病変(こんぶんきびょうへん)といって根っこの周りの骨が吸収されてなくなっている部分もありました。

何が原因なのか。
実はある治療が発端となって、そこから連鎖的に歯が悪くなっていることがわかりました。

話を聞くと、数年前にその後輩歯科医師がその患者さんの左上の歯にブリッジを入れているとのことでした。ブリッジにしたのは左上3~5番の歯、糸切り歯とその奥2本の歯でした。お口の中の写真とレントゲンから、すぐにそのブリッジの咬み合わせに問題があったと分かりました。
正しい噛み合わせでは、上下の糸切り歯同士がガイドになり、ほかの歯に不要な力が掛からないようになっています。しかしこの方は、糸切り歯同士があたらない咬み合わせになっていました。
つまり、左上の歯をブリッジにした際にガイドが変わってしまったことが、ほかの歯が悪くなった原因だったのです。本来なら、左上にブリッジを入れる際、上下の糸切り歯同士があたって奥歯が離れるような噛み合わせにするべきところです。しかしながらそれができておらず、奥歯ばかりに過大な力がかかり歯周病が局所的に進行してしまっているようでした。

お口全体の咬み合わせを深く考えずに詰めたり、被せたりしていると、このようなことは起こりやすいです。

このような不具合は、とくに保険診療において起こりやすいと私は感じています。

理由を3つ挙げますが、全て単価の低さに影響されています。

1つ目の理由は、製作される咬合器にあります。単価が低いためしっかりした精度の高い大きな咬合器が使えないことです。安価で小さな咬合器や、簡単なバネ式の咬合器を使ったり、あるいは咬合器を使わずに製作されることがあるため、咬み合わせがシビアに再現されれにくい一面があります。

2つ目の理由は、技工物(入れ歯、詰物、被せ物など)にあります。

保険診療では、単価が低いため、効率重視で短時間で大量に作られがちです。大きな技工所では組み立て工場のように、10人くらいの技工士が横に並んで右から左に自分の工程だけを終えたら技工物を次から次に隣の技工士に受け渡して行きます。材料も銀歯やプラスチックなど健康保険に適用されているものだけに限定されます。一方自由診療では、単価が適性なため効率重視で大量生産する必要はありません。一人の技工士がドイツのマイスターのように初めから最後まで1人の患者さんの技工物の製作に携わります。材料も限定されることはありません。世界中の一番良いと思う材料を使い、一番良いと思う方法で作るだけなので考え方がシンプルです。歯や歯列は一人一人、一本一本同じものはありません。歯は、全く同じものを大量に作る工業製品とは異なります。モノの費用は安いに越したことはありません。しかし安全や信頼、耐久性を求められるものを作るには適正な費用があって然りです。歯科技工はコストを抑えた大量生産には向いていません。

3つ目の理由は、「正しい咬み合わせの知識と技術水準」です。正しい咬み合わせの知識と、咬み合わせを作る技術水準は非常に重要です。しかし、私も歯科医になって数年間は、正しい咬み合わせの知識を持っておらず、そのため治療がやり直しになったこともありました。咬み合わせの知識と技術水準は大学教育だけでは習得できません。咬み合わせは、海外でも日本においても、大学卒業後に専門的な教育を受けることやスタディーグループで学んだり、トップが正しい咬み合せの知識を持ち実践している環境に身を置くことで身につきます。身につけても技工物が健康保険だと、2つ目の理由から技量をなかなか発揮し難い面があります。また健康保険の治療ばかりに携わっていると、技工を含めて医院全体のレベルが健康保険の治療が基準になってしまうので、せっかく自由診療をしても材質が違うだけで精度も咬み合わせも健康保険レベルになりがちです。

後輩には、まず左上のブリッジをきちんと作り直してお口全体の咬み合わせをつくること。また、歯周病治療を行い、歯ぐきの状態を改善してからインプラント治療を考えることをアドバイスしました。

歯医者に通っているのに、歯がどんどんボロボロになっていく…。そんなことがないよう、お口全体をしっかり見て治すことが大切だと改めて感じた一件でした。

「部分入れ歯が噛みにくい、磨きにくい、口の中がどうも調子が悪い」というご相談は多いです。こうなってしまう原因は、咬み合わせのバランスと、お口の掃除のしづらさにあると考えています。

ある70代の女性は、留め金式の部分入れ歯を使っていて、入れ歯の留め金を引っ掛けていた歯の歯茎が歯周病と虫歯になっていました。あちこちの歯が弱っていて、残せそうな歯は4~5本しかない状態で、歯磨きもしづらくなっている様子でした。「とにかく何とかしてほしい、しっかり噛みたい」というご希望がありました。

多くの歯が弱っていて、残せない状態でした。
丈夫な歯5本を残しました。

歯が数本残った場合、留め金式の入れ歯をすることが一般的です。留め金式の入れ歯を使うと歯が一本づつグラグラしてきて次々に抜けてくる。また残った歯を支点にして入れ歯が沈むのでいまいち嚙めない。このような経験でお困りの方は思いのほか多いです。

インプラントはしたくないとのご希望でしたので、残せる歯は残しながら、掃除もしやすく、全体でしっかり噛めるようにする方法を考えました。採用したのは、下には自由診療のドイツ式入れ歯、上には自由診療の総入れ歯を入れ、金属床で補強しました。

ドイツ式入れ歯では、残っている少ない歯を、その歯に負担を掛けることなく活用できます。2~3本でも自分の歯が残っていると、その歯を支えとして、入れ歯の横揺れを防止できるのです。動きが少なく安定感が増すので、通常の入れ歯よりも噛み心地が格段にアップします。留め金式の入れ歯のように、歯に負担をかけることもないので、次々に歯が抜けてくることもありません。

この方は、初めに今の義歯を改造し治療の間の入れ歯としました。その次に残っていた歯を生かしながら新義歯を作り初め、約1年ですべての治療を終え、今も当院にメンテナンスで来院し、なんでも噛んで食事を楽しんでいます。

私はいつも治療を始めるにあたって、まず「いまこの状態になっている原因は何か」を重点的に考えます。年齢的に掃除がしにくくなっている様子であり、銀歯やほかの金属の歯があり、歯も磨きにくく粘膜が腫れていました。そこで金属は金合金の一種類だけにまとめ、掃除し易いシンプルな設計を心がけました。また、歯周病菌の悪玉菌も基準値以上検出されたので、歯種病治療を行い悪玉菌を減らしてゆきました。

ドイツ式入れ歯はごくシンプルな構造ですが、咬み合わせだけは徹底的にこだることが、良い咬み心地につながります。

入れ歯の完成時、きれいな歯が装着されてお帰り頂きました。
ところがその翌日、入れ歯がすごく痛いと連絡があり、すぐにお口の中をみました。その日は応急処置でなんとか対応しまいたが、結局私の製作時に採取した咬み合わせのポジションが、使いやすい咬み合わせとは異なることが分かりました。
この咬み合わせのリカバーをどうするか散々悩みました。結局上の入れ歯を作り直すことが、入歯の質、患者さんへの負担の点において良いと考え、作り変えました。

作り直すと、その日からしっかり噛めるようになられました。
作り直しは決して良いことでありません。しかし人が行う作り直しはゼロにはなりません。大事なことは問題が起こった時に、その原因を適切見極め、きちんとリカバーし、次の治療につなげることが大事だと思います。
入れ歯治療に限らず歯科治療は咬み合わせに始まり咬み合わせに終わるといっても過言ではありません。改めて、咬み合せは大切さを痛感したケースとなりました。

出来上がった上の総入れ歯、下のドイツ式入歯
入れ歯を装着した様子。上は総義歯、下はドイツ式入れ歯。
金の内冠がちょうど茶筒の役目をし互いの歯を守りながら、入れ歯のズレを防ぎます。

■治療期間と費用
・治療期間:1年
・費用や治療法はドイツ式入れ歯のページを参照ください

■リスクと副作用 
残せない歯の抜歯は外科処置です。一般的な外科処置の偶発症が起こる可能性があります。留め金式の入れ歯よりも全体でしっかり噛める入れ歯ですが、異物感を極度に感じる方は入れ歯治療を受け入れられない場合があります。

歯を失ってしまったときの選択肢には、入れ歯、ブリッジ、インプラントがあります。噛み心地、強度などの点ではインプラントがもっとも天然の歯に近いと言われていますが、ケースによって入れ歯をご提案することもあります。

ある60代の女性は、奥歯が3本ない状態で当院に相談に見えました。
残っている歯は多いものの、歯並びがでこぼこしていて、「うまく噛めない」とお悩みでした。歯がないのは片側だけだったので、最初はシンプルにインプラントを入れようと考えました。

ただ、その方は骨粗しょう症とリウマチをお持ちでした。
どちらも骨の病気なので、念のため、インプラントを入れても大丈夫かどうか、主治医の先生に確認を取ることにしました。
確認したところ、先生からはOKが出たのですが、患者さんご自身が、手術をするには体力が心配ということでしたので、インプラントはやめて、ドイツ式入れ歯をご提案しました。

ドイツ式入れ歯は、つけたまま寝られますし、外れたり、ずれたりもしづらいので、インプラントができない方にとって最善の選択肢だと思います。

この方の場合、歯並びがでこぼこしていて、横を向いた歯が隣の歯にぶつかって、ボディブローのようにじわじわと痛めていたので、咬み合わせも徹底して調整しました。
もともと歯を失った原因である咬み合わせを治さないと、入れ歯を作ってもまた壊れてしまうことが多いからです。
歯がなくなっているのは奥歯だけでしたが、前歯の部分にも被せ物を作り、お口全体でしっかり噛めるようにしました。

一般的な部分入れ歯と比べて、ドイツ式入れ歯のいいところは、残っている歯を痛めないところです。前歯にもきれいな被せ物をしたので、見た目もよくなり、喜んでいただいています。

■治療期間と費用
・治療期間:10か月
・費用や治療法はドイツ式入れ歯のページを参照ください