Aさんは8年以上前から当院に通っていました。40代の男性です。

治療後:現在の入れ歯(ドイツ式)の口もと
治療前:保険の入れ歯の頃

来院当初のAさんは右下の奥歯が痛いということでした。歯周病です。
歯が痛いので日常の食生活においてAさんは苦労をされていました。昼は例えばうどんや サンドウィッチなどの柔らかいものを選んで食事し、夜は家族とは別メニューでAさんが食べ易い様に工夫した料理を奥様が作っていました。

歯周病の検査をするとポケットも深く、出血もありシビアな歯周病でしたので、歯周病の対応を行ってきました。時折あちこちに激しい痛みや動揺が生じ、その都度痛んだ部分の対応を行っておりました。
咬み合わせにも問題はありました。前歯の重要な役割として奥歯を守る役割があるのですが、Aさんにはその役割を担える咬み合わせがありませんでした。咬み合わせが悪いと歯周病は悪化します。
歯周病で失われた骨を回復するには、歯周病治療だけではなく歯周再生療法と咬み合わせの大幅な改善が必要になります。
人工の骨や当時は輸入薬を使った歯周再生療法になります。輸入薬による歯周再生療法も、今回必要となる咬み合わせの改善も健康保険では認められません。
これらの再生療法と咬み合わせの治療のご提案をしました。Aさんとは時間をとっていろいろ話し合いました。相談の結果、当時はそれらの治療は行わずに、まずは健康保険でできる対応を都度行うという選択に至りました。
昔入れたブリッジがぐらぐらになって抜けると、次はそこに健康保険の入れ歯を入れました。しかし治療をしているにもかかわらず歯列の崩壊は徐々に進行しました。保険診療の部分入れ歯は留め金をかけて固定します。すると今度は留め金をかけた歯がぐらぐらになって抜けていきました。

随所で歯を支えている骨が失われていました
保険診療で対応していた頃
健康診療の入れ歯 留め金をかけられた歯から抜けがち
現在のAさん

ある日、Aさんから、「硬いものとまでは言わないけれど、痛くなる前のように噛みたい」、そして「食事で苦労せずに過ごすための治療の選択肢を全て聞かせてほしい」との言葉を頂きました。
これまで歯周病治療と健康保険の部分入れ歯で対応していましたが、次々と歯が抜けていくのを止めることは出来ず、歯は痛み、満足に噛むことができない状態でした。

そこで考えた治療法はこうです。
・予後の悪い歯はまとめて抜いて長く残る歯だけを残す決断をする。
・そして噛むための選択肢として
① 総インプラントに準じたブリッジ
② インプラントを使ったズレない入れ歯
③ ドイツ式入れ歯
の3つをご提案させていただきました。
共通する目標設定はもちろん噛めること。しかも「長持ちする噛める歯」にすることです。

Aさんとは、内容と費用について何度かお話し、上はドイツ式の総入れ歯、下はドイツ式のレジリエンツテレスコープ入れ歯をお作りすることにまとまりました。レジリエンツテレスコープ入れ歯は、少数の歯しか残っていないときに、残った歯に優しく丈夫で長く使えるドイツ発祥の入れ歯です。

治療はリハビリ入れ歯の期間を含めて約12か月で終了しました。

初めは抜歯を行い、リハビリ用の入れ歯を使っていただきました。
この入れ歯で抜いた穴が治り傷口が平坦になって安定するまでを待ちました。
たまに入れ歯がすれて痛むこともありました。痛んだら急患対応で数回調整に来て頂きました。リハビリ用の入れ歯では入れ歯安定材を使っていたので、最終の入れ歯は入れ歯安定材なしで食べられるのか不安をお持ちだったようです。最終の入歯は安定材なしで使える旨をお伝えしておきました。治療中も、リハビリ用の入れ歯を使いながら、痛まずに食事ができるようになっていました。

予後の悪い歯は抜歯し、上は総入れ歯にした。
治療途中のレントゲン 神経を残すからこそ歯が長持ちします 
治療後のレントゲン 

粘膜が安定した10か月目に最終の入れ歯の製作にかかりました。
4回の来院で入れ歯は完成します。

上はドイツ式の総入れ歯
適切に作った大きな入れ歯は 異物感も少なく しっかりと咬みしめても痛みが出ない
下の入れ歯は、残っている歯を守れるレジリエンツテレスコープ

最終の入れ歯を入れた感じは、入れ歯は落ちないし、ビシッととまってズレません。
入れ歯安定材も必要ありません。
はめるときよりも、外すのにかなり力がいるようです。ですが外す際に痛みもないし、かつての留め金式入れ歯のように歯が抜けてしまう心配も一切ありません。
治療を終えて、食べ物を選ばずに何でも食べれるようになり、おせんべいも食べれるし、焼肉も普通に咬めて楽しんでいらっしゃいます。ご家族と別メニューではなく同じメニューになりました。

銀色の内冠は 入れ歯を装着すると見えません。 
現在の入れ歯を装着したところ。留め金がないので 人に気づかれません

治療に際して、予後の悪い歯は抜く選択をしました。
後でお話しいただいたのですが、歯をまとめて抜いた時には、「えーーっ」とショックを受け、これで本当に咬めるようになるか不安になったそうです。
しかし今は痛いところもなく、お刺身のイカも食べれるし、何でも咬めるし、問題はないそうです。

また、見た目については、入れ歯だと人にわからないようにしたいという希望がありました。保険診療の入れ歯のときは、入れ歯だとバレているんじゃないか?と不安があったからです。しかし今の入れ歯では、バレているんじゃないか?といった心配は無いようです。人から入れ歯だと指摘を受けたこともないそうです。

最終の完成した入れ歯を見て、歯が綺麗になっているので、ご家族から「歯が白くなっているやん」と笑いが出たということでした。

活舌についての不安もありました。とくにリハビリ入れ歯が入ったときは不安があり、仕事上で迷惑がかからないか気になったようですが、次第に慣れてクリアできました。
今は全く問題なく発音されています。

■治療期間と費用
・治療期間 12か月
・治療費 今回のようなケースでは、上80万円~ 下160万円~ 相談に応じます。 

■リスクと副作用 
抜歯は外科処置であり、薬剤アレルギーや外科処置の一般的な偶発症のリスクがあります。
入れ歯ははじめ少し痛みが出ることがありますが、調整で対応します。
特にリハビリ期間中の入れ歯は完成義歯よりも安定が劣ります。
入れ歯の人工歯は経年的にすり減りますが、すり減り方は一般的な義歯よりも遙かに少なく丈夫です。

「部分入れ歯が噛みにくい、磨きにくい、口の中がどうも調子が悪い」というご相談は多いです。こうなってしまう原因は、咬み合わせのバランスと、お口の掃除のしづらさにあると考えています。

ある70代の女性は、留め金式の部分入れ歯を使っていて、入れ歯の留め金を引っ掛けていた歯の歯茎が歯周病と虫歯になっていました。あちこちの歯が弱っていて、残せそうな歯は4~5本しかない状態で、歯磨きもしづらくなっている様子でした。「とにかく何とかしてほしい、しっかり噛みたい」というご希望がありました。

多くの歯が弱っていて、残せない状態でした。
丈夫な歯5本を残しました。

歯が数本残った場合、留め金式の入れ歯をすることが一般的です。留め金式の入れ歯を使うと歯が一本づつグラグラしてきて次々に抜けてくる。また残った歯を支点にして入れ歯が沈むのでいまいち嚙めない。このような経験でお困りの方は思いのほか多いです。

インプラントはしたくないとのご希望でしたので、残せる歯は残しながら、掃除もしやすく、全体でしっかり噛めるようにする方法を考えました。採用したのは、下には自由診療のドイツ式入れ歯、上には自由診療の総入れ歯を入れ、金属床で補強しました。

ドイツ式入れ歯では、残っている少ない歯を、その歯に負担を掛けることなく活用できます。2~3本でも自分の歯が残っていると、その歯を支えとして、入れ歯の横揺れを防止できるのです。動きが少なく安定感が増すので、通常の入れ歯よりも噛み心地が格段にアップします。留め金式の入れ歯のように、歯に負担をかけることもないので、次々に歯が抜けてくることもありません。

この方は、初めに今の義歯を改造し治療の間の入れ歯としました。その次に残っていた歯を生かしながら新義歯を作り初め、約1年ですべての治療を終え、今も当院にメンテナンスで来院し、なんでも噛んで食事を楽しんでいます。

私はいつも治療を始めるにあたって、まず「いまこの状態になっている原因は何か」を重点的に考えます。年齢的に掃除がしにくくなっている様子であり、銀歯やほかの金属の歯があり、歯も磨きにくく粘膜が腫れていました。そこで金属は金合金の一種類だけにまとめ、掃除し易いシンプルな設計を心がけました。また、歯周病菌の悪玉菌も基準値以上検出されたので、歯種病治療を行い悪玉菌を減らしてゆきました。

ドイツ式入れ歯はごくシンプルな構造ですが、咬み合わせだけは徹底的にこだることが、良い咬み心地につながります。

入れ歯の完成時、きれいな歯が装着されてお帰り頂きました。
ところがその翌日、入れ歯がすごく痛いと連絡があり、すぐにお口の中をみました。その日は応急処置でなんとか対応しまいたが、結局私の製作時に採取した咬み合わせのポジションが、使いやすい咬み合わせとは異なることが分かりました。
この咬み合わせのリカバーをどうするか散々悩みました。結局上の入れ歯を作り直すことが、入歯の質、患者さんへの負担の点において良いと考え、作り変えました。

作り直すと、その日からしっかり噛めるようになられました。
作り直しは決して良いことでありません。しかし人が行う作り直しはゼロにはなりません。大事なことは問題が起こった時に、その原因を適切見極め、きちんとリカバーし、次の治療につなげることが大事だと思います。
入れ歯治療に限らず歯科治療は咬み合わせに始まり咬み合わせに終わるといっても過言ではありません。改めて、咬み合せは大切さを痛感したケースとなりました。

出来上がった上の総入れ歯、下のドイツ式入歯
入れ歯を装着した様子。上は総義歯、下はドイツ式入れ歯。
金の内冠がちょうど茶筒の役目をし互いの歯を守りながら、入れ歯のズレを防ぎます。

■治療期間と費用
・治療期間:1年
・費用や治療法はドイツ式入れ歯のページを参照ください

■リスクと副作用 
残せない歯の抜歯は外科処置です。一般的な外科処置の偶発症が起こる可能性があります。留め金式の入れ歯よりも全体でしっかり噛める入れ歯ですが、異物感を極度に感じる方は入れ歯治療を受け入れられない場合があります。

歯を失ってしまったときの選択肢には、入れ歯、ブリッジ、インプラントがあります。噛み心地、強度などの点ではインプラントがもっとも天然の歯に近いと言われていますが、ケースによって入れ歯をご提案することもあります。

ある60代の女性は、奥歯が3本ない状態で当院に相談に見えました。
残っている歯は多いものの、歯並びがでこぼこしていて、「うまく噛めない」とお悩みでした。歯がないのは片側だけだったので、最初はシンプルにインプラントを入れようと考えました。

ただ、その方は骨粗しょう症とリウマチをお持ちでした。
どちらも骨の病気なので、念のため、インプラントを入れても大丈夫かどうか、主治医の先生に確認を取ることにしました。
確認したところ、先生からはOKが出たのですが、患者さんご自身が、手術をするには体力が心配ということでしたので、インプラントはやめて、ドイツ式入れ歯をご提案しました。

ドイツ式入れ歯は、つけたまま寝られますし、外れたり、ずれたりもしづらいので、インプラントができない方にとって最善の選択肢だと思います。

この方の場合、歯並びがでこぼこしていて、横を向いた歯が隣の歯にぶつかって、ボディブローのようにじわじわと痛めていたので、咬み合わせも徹底して調整しました。
もともと歯を失った原因である咬み合わせを治さないと、入れ歯を作ってもまた壊れてしまうことが多いからです。
歯がなくなっているのは奥歯だけでしたが、前歯の部分にも被せ物を作り、お口全体でしっかり噛めるようにしました。

一般的な部分入れ歯と比べて、ドイツ式入れ歯のいいところは、残っている歯を痛めないところです。前歯にもきれいな被せ物をしたので、見た目もよくなり、喜んでいただいています。

■治療期間と費用
・治療期間:10か月
・費用や治療法はドイツ式入れ歯のページを参照ください